買ったけど読んでない本全部読む①頭の中がカユいんだ(中島らも)

頭の中がカユいんだ (集英社文庫 (な23-21))

頭の中がカユいんだ (集英社文庫 (な23-21))


買ったはいいものの生活に忙殺されて本棚の肥やしになってしまっている本を全部読みます。まず1冊目は中島らもの処女作、「頭の中がカユいんだ」から。

内容としては会社員時代の中島らもにスポットを当てたエッセイ集なんだけれど、これまでに数冊読んだエッセイとは少し違った印象を受けた。パッと読んで目に付くのはラリって書いたんだろうな〜という感情のほとばしりだけど、それよりも語られるエピソードに"どろり"としたものを感じた。もちろんか他の「頭の中が〜」以降のエッセイにも自らの間抜けさを滑稽に描いた話はあるが、この本の中の話はそれ以降にはない若さというか、青臭さ、もっと端的に言うと童貞臭さが見受けられ、それまで理解していなかったナマの中島らもについて触れたように思った。

特に好きな話が4章「クェ・ジュ島の夜、聖路加病院の朝」だ。叔父の会社に勤める中島らもは得意先の部長とその友人と、南の島へ接待旅行に出かける。この島は所謂「女護が島」(女しかいない島、ここでは売春の盛んな島の意)で、はしゃぐ同行人たちとは裏腹、童貞ではあるが、貧しいよその国で金にものを言わせて女を抱くような真似はしたくないと考えるらもはあまり乗り気ではなかった。しかし、割り当てられた女性はかつての想い人にそっくりで、前述のような正義感はいつの間にやら消えてしまっていた。打ち解けた二人はナイトクラブで、浜辺で、そしてホテルで甘美な時間を過ごす。しかしそんな夢のような時間を成り立たせるのは「お金」であって、別れの朝、お金を渡す段になって豹変した彼女に土産を買う金まで毟り取られてしまう。夢のような時間は当然のように終わり、日本に持って帰って来たのは淋病だけ、というオチで終わる。

文庫化によせてのあとがきにこんな一節がある。


__________この本は、当時東京の月島に借りていたワンルーム・マンションの中で、実質的には四、五日で書かれたものだ。(中略)

その異常な速さの推進力となったのは、アルコールと睡眠薬だった。この本は、つまりラリりながら書かれたものだ。したがって、世界そのものによく似ている。つまり、美しくて醜く、頭の中の痒みのように永遠にそれを掻くことができない。そんなところが、僕は好きなのだ。


美しくて醜い、甘酸っぱいけどほろ苦い、世界そのもののようにありふれた話だよな、と思った。悲しいけれどじんわり広がる読後感が心地よかった。

この話以外にも美しくて醜い話が詰まってるよい本でした。よろしければ是非。